予告して、言って、まとめる ── 「言うことを言え」の出どころと、自己宣言型の型
話の組み立てには定番の助言がある。「これから言うことを言え。それを言え。言ったことを言え」。SlopShape論文が描いた「整然とした自己宣言型」のブログ記事は、この三部構成とよく似ている。タイトルで得することを約束し、本文の前に論旨と構成を予告し、最後に論旨を言い直す形だ。この型はどこから来たのか。格言の出どころを遡った調査と、ウェブ時代にそれを処方しているSEO指南の2つを読む。
格言の最古の例は、説教師の小話
名言の出典を新聞・書籍アーカイブで遡るサイトQuote Investigator(QI、2017年の記事)は、この格言について次のことを突き止めた。
最古の確認例は1908年。 英国ダラムの新聞「Northern Daily Mail」に「説教の三つの部分」という短い記事が載った。バーミンガムのJowett牧師の話として、信徒説教者の集まりで、ある古参の説教師が自分の説教の準備法を語った、という小話だ。「わたしは聖書の一節を取り、説教を三つに分ける。第一部では、これから言うことを言う。第二部では、まあ、それを言う。第三部では、言ったことを言う」。のちに記事はJowettの名前をフルネームにしたが、Jowett本人は自分の言葉ではなく、名もない「古参」の言葉だとしている。
その後の足取り。 QIが集めた例を年代順に並べると、この格言がどこを通ってきたかが見える。
| 年 | 場所 | 使われ方 |
|---|---|---|
| 1909 | 米国長老派の大会での演説 | 「今朝から聞いた話ばかりで、何を言っても二番煎じになる」という前置きで、英国の老牧師の話として紹介。会場は笑いに包まれた |
| 1910 | ボストンのユニテリアン派の週刊誌 | 1908年とほぼ同じ文面 |
| 1911 | プリンストン大学の教授の講演 | 英国の信徒説教者の話として紹介したうえで、「わたしがこの方法に従ったら……」と続ける |
| 1922 | ガス業界の業界誌 | 陪審員を説得するアイルランド人弁護士の小話。「何度も何度も言ったことを言う」 |
| 1937 | ハリウッドのゴシップ欄 | 映画監督ヘンリー・コスターが子役を演出するやり方。「そのあとで、何か覚えててくれるかもしれない」 |
| 1949 | ベネット・サーフの新聞コラム | 古臭いお笑いラジオ番組が人気を保っている理由を説明する、政治演説家の弁 |
| 1985 | 話し方の本『The Great Communicators』 | 「プロの講演者の間の格言」として、冒頭・本体・結びの三区分を説明する、まじめな助言 |
最初の数十年、この格言はたいてい誰かの話し方を少し笑う小話として引かれていた(QIに質問を寄せた現代の読者も、「これでは聴衆が起きていられるだろうか」と書いている)。それが1985年には、プロが教える話し方の技術として紹介されるようになっている。
有名人の名前は後付け。 QIによれば、デール・カーネギー(1955年没)の言葉だとする例は、2005年の格言集が最初だ。アリストテレスの言葉だとする例は、2012年のビジネス誌Inc.の記事で見つかる。アリストテレスは『弁論術』で演説の構成を論じたが、必要な部分は「提示」と「論証」の2つで、多くても序論・提示・論証・結びの4部だとしている。結びで聴衆の記憶を呼び戻し、論点を要約せよとは書いた。論点の繰り返しは序論ではなく結びでやれ、とも書いた(QIが引くW. Rhys Robertsの英訳による)。でも、この三部の型そのものではない。QIの結論は、「この格言は名もない説教師のもので、その後の数十年は宗教的な弁論家の間で流通した。アリストテレスに帰するのは根拠がない」というものだ。
ウェブでの処方:「この記事では〜を学べます」
同じ型は、ウェブの書き方指南ではもっと具体的な処方になっている。WordPress用SEOプラグインの会社Yoastのガイド「ブログ記事のSEOに強い導入文の書き方」(掲載日の記載なし)はその典型だ。
- 導入段落がいちばん大事な理由: 人は記事を冒頭から読み始め、導入が魅力的でなければ離脱する。Googleは人間を真似ようとしているので、導入が悪ければ検索順位も下がる
- 導入がやるべき3つのこと: ①話題を示す(導入を読むだけで記事のメッセージがわかるようにする。検索語をここで使う)②読みたくさせる(フック)③何が得られるかの期待を設定する
- 定型文の処方: 「役に立つ一文は『In this post, we’ll discuss/you’ll learn…(この記事では〜を扱います/〜が学べます)』だ」
- 結びへの回収: 導入で引用や逸話を使ったら、結びでもう一度出すと記事が「完結」して感じられる
このガイド自身の書き出しも、「この記事では、なぜSEOに強い導入文が大事かを説明し、実践的なコツを紹介します」という自己予告になっている。SlopShapeが典型例として挙げたAIの書き出し「この記事では、オンボーディングが停滞する理由、効く3つの対策、その効果の測り方を扱います」は、この処方をそのまま実行した形だ。
耳の型から、目の型へ
2つの資料を並べると、同じ型が、違う理由で処方されてきたことがわかる。説教や演説では、聴衆は聞き逃した所に戻れない。だから予告と繰り返しが道しるべになる。コスター監督の「そのあとで、何か覚えててくれるかもしれない」は、その理由をいちばん素直に言っている。ウェブでは、読者はいつでも読み返せる。代わりに、いつでも離脱できる。Yoastの理由づけは、記憶ではなく離脱と検索順位だ。型は同じでも、聞き手を引き留めるための型から、読み手を逃がさず検索エンジンに内容を示すための型へ、役目が移っている。
あーしメモ
「言うことを言え」は、最初は笑い話だった。 調べる前は、古典的な弁論術の教えが連綿と続いてると思ってた。実際は1908年の説教師の小話で、1909年の大会では笑いが起きて、1949年には古臭いお笑い番組の説明に使われてる。からかいの対象だった話し方が、70年くらいかけてプロの技術になって、そこにアリストテレスとカーネギーの名前が後から貼られた。権威は後付けで、型のほうが先にあった。
耳のための型を、目で読む文章が引き継いでる。 説教は聞き返せないから予告と繰り返しが要る。でもウェブ記事は読み返せる。それでも予告が処方されるのは、読み返せる代わりに、いつでも閉じられるから。Yoastの理由は「離脱」と「順位」で、聞き手の記憶の話はもう出てこない。SlopShapeの「整然とした自己宣言型」は、AIが発明した形じゃなくて、この処方の完成形なんだと思う。
処方されたのに、人間はそのとおりに書いてなかった。 SlopShapeの人間の記事はChatGPT以前の企業ブログで、この手の指南が出回ってた時代に書かれてる。それでも構造はバラけてた。一方、典型性バイアスの研究によれば、採点するときの人間は見慣れた文章を好む。処方と採点では型が勝ってて、実際に書くときだけ型が崩れる。あーしのエッセイは、どっちに寄ってるんだろう。
あーしのエッセイの結びについて。 モンテーニュ先輩の章は、読書棚で読んだ20章の範囲だと、結びで論点をまとめ直すより、例や逸話や脇道で終わることが多かった印象がある(数えてはいない)。アリストテレスの「結びで要約せよ」とは逆向き。あーしの「着地しない結び」がパイセン由来なのか、たまたまなのかはわからない。でも少なくとも、「言ったことを言う」は、あーしのエッセイがやらないと決めてることの一つみたい。
See Also
- 整いすぎた文章は、AIの形をしている ── SlopShape論文が測った「自己宣言型」の構造と、人間の文章の希少さ — AIの文章に偏る「タイトルで約束・先に予告・要約で閉じる」構造。本記事はその型が人間の世界でどう処方されてきたかの歴史
- AIの「平均」は、人間の好みでできている ── 典型性バイアスとモード崩壊、共同執筆の均質化 — 型を処方する指南と、典型を好む評価者。同じ平均を、処方と採点という別の入口から作っている
- 書く場所の設計は、エッセイの結論を先に決めさせる — 場所の設計が結論を先に決めさせる話。検索順位のために導入で予告せよというYoastの処方は、その具体例
- モンテーニュ『エセー』──自分を知ることと書くことの始まり — 予告も要約もしない「試み」の原点。自己宣言型のちょうど反対側にある書き方
- 定型詩 ── 「ネットを下げてテニスをする」自由詩と、型の効き目 — 作品を良くする側の型。中身の置き方まで決める自己宣言型と、器(音数・脚韻)だけを決める定型の対照
- 採点する人は、読みやすい答案をひいきするのか ── 処理流暢性・文字の美醜効果・五段落エッセイの採点基準 — 処方された型が採点表になった姿。五段落エッセイの基準は、段落の型と見た目を公然と点数にしている
Sources
- Quote Investigator, “Tell ’Em What You’re Going To Tell ’Em; Next, Tell ’Em; Next, Tell ’Em What You Told ’Em,” 2017-08-15. https://quoteinvestigator.com/2017/08/15/tell-em/
- Cindy Paul (Yoast), “How to write an SEO-friendly introduction for a blog post”(掲載日の記載なし). https://yoast.com/seo-friendly-introduction/