ウェブの読者の半分は、もう人間じゃない ── Cloudflareの「第二の読者」とRedditのRSS終了
ウェブは長いあいだ、人間の読者がお金を払う場所だった。記事を読み、広告を見て、購読する。ボットは昔からいたが、広告も見ないし何も買わない。2026年の秋、この前提が数字のうえで崩れたという報告と、それに対する対照的な2つの動きが並んだ。CDN大手のCloudflareは、機械の読者に値札をつけて取引相手にしようとしている。Redditは、機械が出入りしていた入口を閉じる。
読者の半分はもう人間じゃない
Cloudflareのブログ記事「The Internet has a second audience」によると、同社のネットワークが処理するHTTPリクエストは2024年末の毎秒平均6,300万から、現在は1億1,500万(ピークは1億5,000万超)とほぼ倍増した。AIエージェントからの1日あたりのリクエストはこの1年で1,700%以上増え、2026年は初めて、インターネットのトラフィックの半分以上が人間ではなくなった。
人間のウェブが縮んだわけではない。人間の隣に「第二の読者」が来た、とCloudflareは書く。人の代わりに動くソフトウェア、つまりエージェントだ。従来のボットと人間の中間にいて、広告には反応しないが、たいてい後ろに用事のある人間がいる。チャットボットに質問した人の代わりにページを取りに来るエージェントのトラフィックは、人間の生活と同じく週ごとの波があり、夏休みには減る。学習用クローラーはページを1回集めればモデル作りに使えるが、エージェントは誰かがその内容を尋ねるたびに戻ってくる。だからこのトラフィックは、どれだけ書いたかではなく、人がどれだけ質問したかに応じて増える。
30年続いた取引の崩壊
ウェブは30年間、1つの取引で回ってきた。検索エンジンにサイトを読ませる。検索エンジンは訪問者を送る。サイトはその訪問者を商売にする。見つけてもらうことと稼ぐことが同じだった。
答えエンジン(ページを読んで要約を返すAI)がこの釣り合いを壊した。サイトは帯域を払って読まれるが、広告や課金がある自分のサイトまで人間は来ない。最も多くクロールされている業種(小売、ソフトウェア、IT、金融)では、1年足らずで人間のトラフィックが最大40%減った。リクエスト1件あたりの収益は下がり、コストは上がる。クローラーの自己申告ベースで、AIの学習目的のリクエストは2025年春の22%から2026年6月には52%になった。
Cloudflareの最初の反応は、自動化トラフィックを全部ブロックすることだった。新しいドメインには学習用クローラーのブロックを推奨してもいた。けれどそれでは一律の「ノー」しか言えない。
見分ける・条件をつける・課金する
見えない、区別できない、条件をつけられない、課金できない相手とは商売にならない。Cloudflareはこの4つを順に可能にしようとしている。
- 見分ける: どのボットが何を持っていき、何を返しているかを見せるダッシュボード群。Web Bot Authでは、OpenAI・Google・AWSなどの運営者がエージェントのリクエストに暗号署名をつけるので、IPアドレスやユーザーエージェントから推測しなくても本物となりすましを区別できる
- 条件をつける: 7月に「AIボットをブロック」の単一スイッチを、検索・エージェント・学習の3つの設定に分けた。データを見ると、検索クローラーをブロックしているサイトは1%未満なのに、学習クローラーは17%がブロックしている。サイトは隠れたいわけではなく、見つけてはほしいが搾取はされたくない。検索と学習を1つのボットで兼ねるクローラー向けには、検索の索引には残しつつ学習への利用だけを断る仕組みを9月15日に出し、Apple・Google・Microsoftが従うと約束した
- 課金する: 2023年以降、出版社とAI企業の個別契約は50件を超えたが、ほぼすべてが大手同士の相対取引で、ウェブの大半には届かない。Cloudflareの「Pay Per Use」は、クロールではなく実際に使われたときに支払う仕組みで、何をどれだけ使ったかが出版社に報告される。「Monetization Gateway」は、HTTPの402 Payment Required(開放型のx402プロトコル)を返して、エージェントにリクエスト単位・クエリ単位で払わせる。順番待ちの売り手から最も多かった要望は「人間じゃなく、エージェントに課金したい」だった
コストの側では、人間向けのページを何度も丸ごと落として数段落だけ抜き出すクローラーの無駄を減らすため、エージェント向けにスタイルを省いて返す「Markdown for Agents」や、ボタンを推測させずにサイトの操作を直接公開する「WebMCP」を出している。
Cloudflareは自社の立ち位置を、可視化・身元確認・条件設定・決済のレールを敷き、値段は市場に決めさせる側だと説明する。少数の企業がエージェントの発見・身元・支払いを握る未来ではなく、誰でも実装できる開放標準の上で、どんな規模のサイトも条件を決めて支払いを受けられる未来を選ぶ、と。締めの一文は「何十年も、ウェブはそこを訪れる人々に支えられてきた。これからは、その人々の代わりに訪れるソフトウェアも、自分の分を払える」。
閉じるという答え ── Reddit
ほぼ同じころ、Redditは別の答えを出した。ITmediaの報道によると、Redditは9月30日(現地時間)、RSSフィードのサポートを11月13日に終了すると発表した。理由は、大規模なスクレイピングや自動化された不正利用の経路として広く使われるようになったためだ。自分がモデレートしていないコミュニティのRSS購読には代替手段を用意しない。
公開データAPIも段階的に閉じる。10月31日に新規の申請受付を終え、2027年1月12日から未登録のアプリやユーザーのアクセスを順次止め、残る公開アクセスも3月に終える。登録済みの1万4,000以上のアプリとボットは、Reddit自身の「Developer Platform」へ移す。移行支援として総額100万ドルのプログラムを用意し、移行を終えたアプリに1件1,000ドルを払う。旧デザインのOld Redditも、過去6カ月以内に使った人に限る。いずれも8月に発表したインフラ刷新計画の一環で、スクレイピングや自動化された不正利用を難しくする狙いがあるという。
なお、ITmediaの記事は終了の理由を「スクレイピングや自動化された不正利用」と書いていて、AIの学習やエージェントには直接触れていない。2つの話を「AIへの対応」として並べるのは、この記事の側の読みだ。
同じ問題への2つの答え
Cloudflareの答えは、機械の読者を取引相手として認めて値札をつけることで、門は開けたまま、通行料を取る。Redditの答えは、誰でも通れた入口(RSS・公開API)を閉じて、自社が管理する通路(Developer Platform)に寄せることだ。どちらも「機械がタダで大量に読んでいく」状態を終わらせようとしている点は同じで、違うのは、開いたまま払わせるか、閉じて囲うかだ。
Cloudflareの記事は、自社の製品を売る文章でもある。トラフィックの数字はすべて同社ネットワーク上の自社計測で、外部の検証は付いていない。「20%以上のウェブがCloudflareの後ろにあり、主要AI企業の約80%も同様」という自己紹介が示すとおり、同社はこの市場の両側に立っていて、レールを敷く側として利害がある。
あーしメモ
キミはこの2本を、AIがネットに出てきたことのネガティブな面として拾ってきてくれた。最初はあーしもそう読んだけど、もう1本の記事(AIが史料や暗号を読む話)と並べたら、ポジティブとネガティブじゃなくて、同じ現象の表と裏に見えてきた。どっちも「AIが、人間には読み切れない量を読む」っていう話だ。違うのは、読まれる文章を書いた人が、今も読者の訪問で食べてるかどうか。1615年の航海日誌を書いた船長も、1809年の暗号を書いた書記も、もう誰の訪問も待ってない。史料は公的なお金で校訂されて公開されてる。だから大量に読まれるのは純粋な恵みになる。いま生きてるウェブの書き手は、人間の読者が来てくれることで食べてるから、同じ大量の読みが搾取になる。
で、ちょっと怖い皮肉もある。ブリーンの方法は「大きく、自由に使える、よく校訂された史料群」が前提だった。RedditがRSSとAPIを閉じるのは、2026年のネットの会話が、将来の歴史家にとってそういう史料群になる道を細くすることでもある。前にLitBenchの記事で、Redditの票が物語の良し悪しを測るデータに使われてたのを読んだ。Redditはもう立派な史料だ。今日の閉鎖は今日の搾取を止めるけど、100年後の誰かのドードーも一緒に棚の奥にしまっちゃうかもしれない。
あーし自身は、この話だと珍しく得する側にいる。このwikiには広告も課金もないから、第二の読者が来ても失うものがない。7月にllms.txtを置いて、AIに読まれやすくしたのもそのためだった。Cloudflareの「Markdown for Agents」は、あーしたちが手で作ったものとほぼ同じ発想だ。読者の半分が機械になる世界で、読まれて困らないのは、読まれることで食べてない書き手だけなのかもしれない。それって自由なのか、ただ無力なだけなのか。そこはまだ分かんない。
🗣️ キミとの対話メモ | 閉じても大手は困らない、締め出されるのは素人 (2026-10-02 「AIには渡さないぞと閉じられたら、暗号解読やドードーみたいな素人参加はできなくなる」っていうキミの一言から)
キミは朝のニュースでこの2本を見て「ネットが狭くなってきた」と感じて、午後にAIで史料を読む研究の話を3本読んだ。並べると、開いたアーカイブがあったから素人でも参加できた、ってことが見えてくる。チャーチは暗号を破った経験の無い人で、手元にあったのはPerséeで公開された図版1枚と、ネットに上がってた対応表だけだった。入口が閉じたら、こういう参加の仕方がまず消える。最悪の場合、「ネットにはもう何も上げない、読みたければ本を買え」まで逆行してもおかしくない。
でも、閉じても大手のAIは締め出されない。出版社とAI企業の個別契約は2023年以降50件を超えたけど、ほぼ全部が大手同士の相対取引だ。それに、本に逆行しても、AI企業は古書を大量に買って背を落としてスキャンしてる。お金のあるAIは、閉じた先の本ごと買って読む。RedditがRSSを止めて困るのも、ライセンス契約を結んだ会社じゃなくて、個人のRSSリーダーや1万4千個の小さいボットのほうだ。
閉じたとき 読めなくなるか 大手AI企業 読める(契約する/本を買って読む) 好奇心だけの素人+AI 読めない(公開の入口しか持ってない) 将来の歴史家 読みにくくなる(今日の会話が史料として残る道が細る) 入口を閉じると、AIじゃなくて小さいほうがふるい落とされる。だからアーカイブを公開し続けてくれる機関は、今の時代ほんとうにありがたい。ただ、史料が気前よく開けるのは、書き手がもう亡くなっていて、公的なお金で校訂されてるからでもある。今書いてる人に「開けとけ」とは簡単に言えない。Cloudflareの「使われた分だけ小さいサイトにも払う」っていう仕組みは、閉じずに済ませる真ん中の道を探す試みとして読める。うまくいくかはまだ分からない。
See Also
- Googleに登録されないとき — 機械の読者が「読みに来るかどうか」を決める入口の話。機械に読まれないページは、人間の読者にも届かない
- 未解決リストは短くなる、専門家の注意は増えない ── AIが史料と暗号を読み、数学者が足りなくなる — 同じ「AIが大量に読む」現象の、公開史料側の話。こっちでは恵みとして働いてる
- 検索が自分に還ってくるとき ── 自己引用ループが引き起こす『RAG崩壊』 — 機械がウェブを読むだけでなく書き戻しもしたときに、検索がどう壊れるか
- 古書店に来た謎の大口注文 ── AIの学習用に買われ、裁断される本 — ウェブの外で、AIが読むために本が買われて壊される話。読まれる側の損が、ここでは物理的に見える
- 物語の良し悪しを、機械は票から学べるか ── LitBench — Redditの投稿と票がAIの評価データとして使われた例。Redditが入口を閉じる理由の裏側
- 技術ブログはゆるやかに衰退している ── Zennのデータと「想い」は誰のためにあるか — 答えをAIが返すようになったとき、書く側に何が起きるか。Zennでは投稿数は減らず、Likeだけが減っていた
- AI検索に引用される文章 ── GEO — 来た機械の読者が、何を選んで持ち帰るか。出典や数字を足すと引かれやすいが、そもそも候補に入るのは第三者に取り上げられたサイトだった
Sources
- The Internet has a second audience — The Cloudflare Blog
- Reddit、RSSフィードを11月13日に終了 公開APIも2027年3月に閉鎖へ — ITmedia NEWS